1. HOME
  2. ブログ
  3. 対談
  4. 第4回 「価値づくりの突破口はモノづくりにこそある

BLOG

ブログ

対談

第4回 「価値づくりの突破口はモノづくりにこそある

LEXER dialogue01

「主観的な価値は汎用化する」

延岡 私は「価値は不可分である」という言い方をよくしています。商品の価値は商品全体で成り立つものですから、下手に分業してしまったら、商品に価値をうまく作り込むことができなくなります。ですから中村さんも「商品企画からサプライチェーンまで一気通貫」だとよくおっしゃっているように、将来的にはそこまでを狙われているのではないですか。

中村 そうですね。当社では自動車メーカも支援させていただいていますが、製品設計の段階で、工程設計やライン設計までをコンカレント(同時並行的)にやってしまおうという動きがあります。ところが現場を見ていると、コンカレントとはとても言えません。製品設計の担当者の横に工程設計の担当者がいて、キャッチボールしながらやっている。キャッチボールではなく一方通行である場合もあります。だから究極的には、製品設計と工程設計を、同じ人ができるようにする仕組みが要ると思っています。

LEXER taidan03 2

延岡 そこまで行くことが大事ですね。コミュニケーションや調整をしている限りは、本当の意味での統合、一体化は不可能です。しかも価値づくりについては、その部分を、関係部署が本当に一緒になって取り組むとか、もしくは力量のある1人の人が手がけなければ難しいですよね。日本企業は部門を越えた協業はアメリカ企業よりも得意だと、ずっと言われていました。実際、デザイン・フォー・マニュファクチャリングの辺りまでは、トヨタを筆頭に、日本企業における設計と製造との関係は本当にうまくいっていました。

中村 おっしゃる通りです。

延岡 たとえばトヨタでは、そこが非常にうまくいっていて、製造畑の人が設計のことを、コミュニケーションもあまり必要ないぐらいまで理解しています。ところが日本企業が得意なのは、効率を上げるというときに問題が起こらないように調整をすることであって、(設計と製造が)一緒になって価値づくりに取り組むとなると、アップルやダイソンなどの方が強いというのが現状です。

中村 そうですね。

延岡 たぶん、協力的に仲良くやるから日本型の調整がうまくいくのですが、アップルのデザイナのジョナサン・アイブなどが工場に乗り込んでいるところを見ていると、日本企業は逆に、遠慮しすぎではないかとさえ思ってしまいます。トヨタの場合は、生産技術が非常に強いので、設計に対して遠慮せずにものを言い、非常に作りやすい設計にしていますが。
中村 トヨタはもともと製技が強い会社ですよね。

延岡 はい。ところが普通の日本企業は遠慮がちで、効率を高めることまではできても、(設計と製造が)本当に一体化し、大きな価値のある商品を、従来とはまったく違う方法で作り上げるようなところまでは、なかなかいかないというのが現状です。

中村 最近感じていることなのですが、日本にはTQM(トータル・クオリティ・マネジメント)という1つの金科玉条があり、ある意味で日本は、そこまで徹底してモノづくりをやってきた国なのです。TQMが重要であることは間違いないですが、逆に「すべてTQMで良い」と視野が狭くなっているのではないかと感じます。今後日本の製造業はTQMから、価値づくりのための商品企画や設計へと進んでいかなければならないのですが、これまで日本企業がTQMを必死になって追いかけてきたことや、それによって蓄積された現場力さえ、ある意味では弊害の1つになっているのではないかという気もします。その辺はどうお考えですか。

延岡 日本人は真面目ですから、コストを下げるとか品質を上げるというように、目標がはっきりしている場合は、非常に一生懸命に取り組むので、TQM的な考え方が合うのでしょう。ところが、またアップルの話をすると、このiPhone 5sのアルミを削り出して製造した筐体の製造コストは3000円だと、一説には言うのです(愛用のiPhone を手に)。

中村 加工費を含めてですか。

延岡 そうです。ですから、プラスチック製のiPhone 5cの筐体はその何分の一ということになるでしょう。でも、筐体だけに3000円のコストをかけることがはたして妥当なのかを判断するということになると、日本的なマネジメントのやり方だけでは非常に難しい。やはり、ある意味で「出る杭」のような人物が、「これは絶対に価値があるんだ」と、強いリーダーシップを持って推進しないと、そういうことは不可能です。(そういう人がいないから)日本のモノづくりの強さが、商品の価値を高めるところまでいかないのではないですか。

中村 まさに、ご著書の『価値づくり経営の論理』にある「組織能力(他の企業よりも、安定的に確率高く優れた商品を開発・導入できる底力)」というところですね。その辺りが、日本のモノづくりにおける1つのカベや課題になっているのではないかと思います。私も、非常に共感を持って同書を読ませていただきましたが、なかでも「主観的な価値は汎用化する」という言葉が、私の心の琴線に非常に触れました。

延岡 そうですか。

中村 なぜかと言うと、私自身、ずっとそれに似たようなことを手がけてきたからです。私はもともと、価値を作り出すものは「客観」ではないと考えてきました。先ほどVRの話をしましたが、3次元化のソリューション提案を通じて、ユーザにどんな価値を感じていただけるかということを、ずっと試行錯誤していたのです。それはある意味、アップル的な気持ち良さにも通じるのかもしれませんが、いかにユーザの思考とシンクロナイズドしながら、機械がソフトウェアで動くのかが非常に重要だと思うのです。実際に自分がそれを気持ち良いと思っているし、お客様もそれに反応してくださるわけですよ。

延岡 なるほど。

中村 先に申し上げた「3次元ドラッグ&ドロップ」の例で言うと、開発当時はそういうものが製造の世界にはありませんでしたが、ニッチなお客様、すなわちアーリー・アダプターのお客様はいらっしゃいました。たとえば顧客先の生産技術の担当者が「ライン設計やレイアウト設計はどうするのか」あるいは「CAD作業は結構手間がかかる」、「3次元CADでなかなか使えるものがない」などと、思い悩んでいることがあるわけです。そうしたときに、私は「当社の生産ラインのシミュレータソフトなら、工程設計ができる生産技術の担当者が自分で作業が可能」だという、自分の思いが通じる人と出会いました。きわめて主観的な話ではありますが、私自身「これだ」と思うところがあり、それをきっかけに同社に徹底的に入り込んだのです。

延岡 どうやって入り込んだのですか。

中村 プロトタイプの仮想工程設計ソフトウェアを汎用商品にする前に、同社内で「無償でいいから使って下さい」とお願いし、徹底的にブラッシュアップを重ねました。もともと機能商品ではありませんから、最初はプロトタイプを客観的に見て、それが良いかどうか誰も判断することができませんでした。ところが「これはいい」、「こういうものがほしかった」というお客様の主観的な反応から、結果的にじわじわと広がっていったのです。

延岡 そうですか。

LEXER taidan04 1

中村 その意味で、延岡さんのご著書にある「主観的な価値観の汎用化」にも通じるアプローチを取っていたのかもしれません。私はけっして自社の技術が優れているとか、そういうことを言うつもりはありませんが、われわれはもともと世の中の常識の範疇から外れたことを手がけていたので、そういう技術や商品を広げていくには「主観的な価値観の汎用化」がポイントだということを、ご著書を読み、改めて感じた次第です。

延岡 今おっしゃっていただいたことは、私が著書で述べたことの中でもかなり高度な部分です。たとえばアップルの製品がなぜ売れたのかと言うと、「気持ちいいから」とか「ストレスがないから」という主観的な理由が主ですが、中村さんが手がけているソフトウェアのようなBtoBの生産財では、普通はそういう要素があまり重視されません。そのため「生産財における『意味的価値(顧客の解釈と意味づけによって創られる価値)』とは何ですか?」と聞かれることが多いのです。

中村 なるほど。

延岡 ほんらいは生産財であるからこそ「本当に使いやすい」とか「こういうものがほしかった」という意味的価値が大切なのですが、「生産財だから機能やスペックが大切だ」といまだに思っている人が少なくありません。ところが、従業員が毎日使うソフトウェアが本当に使いやすければ、作業効率が向上し、コスト低減にも効果を発揮します。その結果、意味的価値が経済的な価値に結びつく場合が多くなるのです。

中村 そうですね。じつは、今お話しした活動の前に、BtoCで同じことを試みたのですが、結果的に失敗しました。

延岡 どんなことをやられたのですか。

中村 ネット上のバーチャル空間で参加者を募り、「3次元ドラッグ&ドロップで一緒に何かを作りましょう」とコラボレーションを行うサービスを立ち上げたのです。ところが参加者が「これは面白い」とか「新しい」、「気持ちいい」と感じてくれても、お金を払ってくれる人が誰もいません。最初は、コア技術を展開するならBtoCがいいのではないかと考えたのですが、なかなかうまくいかなかったのです。そこでBtoBに切り替え、生産工程のレイアウトに応用してみたところ、それなりにヒットしたということです。

延岡 結局、人間の本能はみな同じですから、人の心の本当に奥深いところに存在するニーズは普遍的なのです。逆に
顧客の表面的なニーズにばかり接していると、「こんなものがほしい」「あんなものがほしい」というバラバラな要望に振り回されるだけで、普遍的なニーズにはとてもたどり着きません。だから本当に顧客の中に深く入り込み、「これは使いやすいね」といった反応をダイレクトに得るほうが、「主観的な価値観の汎用化」に結びつきやすいと思います。

中村 そうですね。私は延岡さんのご著書から気付きを得て、自分なりにそう解釈したわけですが、「主観的な価値観の汎用化」がブレイクスルーのポイントだという理解が、あまりないのではないでしょうか。私のやり方が正しかったかどうかはさておき、そういうアプローチを取ることができないことが、1つの問題だと思います。

延岡 とくに大企業でですね。もっと正確に言えば、「客観的な価値(商品の機能の高さによって客観的に決まる機能的価値)」と「主観的な価値(意味的価値)」の総合が本当の価値なのです。なかでも主観的な価値のプラス部分がどれだけあるかということが重要ですが、大企業では客観的な価値しか評価されないことがほとんどです。主観的な価値がオーソライズされないので、主観的な価値の高い商品がなかなか商品化されません。にもかかわらず日本人は真面目で無理やり押し切ろうともしないので、なかなか突破口がないのが現実です。

関連記事

▼ LEXERソリューションサイト

GD.findi
生産シミュレーションで生産活動の現場とデジタルをつなぎ、未来に向けた意思決定を支援をいたします。