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第5回 モノづくりの強さと市場価値が結合すれば、日本の 製造業は再生する

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「モノづくり復権」の裏に潜む危機

中村 村田さんは製造業との広い接点をお持ちで、デザインからモノづくりを見直そうという活動を行われてきたと思うのですが、その中で最近どんなことをお感じですか。

村田 モノづくりが復権してきたのではないでしょうか。実際、これまでのような悲観的な見通しが少なくなり、製造業に光が差し込み始めています。円安という要素ももちろんありますが、これまで厳しい淘汰を経て、コア・コンピタンスをきちんと持っている企業が生き残ってきたということだと思います。

中村 そうですね。コア・コンピタンスを持っている会社が今生き残っているのですよね。

村田 実際に企業にヒヤリングを行ったり、一緒に仕事をさせていただくと、そこが力を持っていることを実感します。私は(プロダクトデザインなどの)仕事をする前に、必ず相手企業にコアコンピタンス・ヒヤリングを行い、そこが他社に比べてどんな点で競争力を持っているかを理解するよう努めています。あるいは「感性価値」と言いまして、商品のバックグラウンドとして、相手企業がどんな価値を持っているのかを聞かせていただいています。そのたびに、なぜその企業が厳しい経済状況の中で生き残ったのか、納得させられるものがありますね。

中村 一方、自社が持っている価値とは何かということを、企業は絶えず考えているわけです。ところが「今の時代に合ったモノづくりの価値とは何か」を追求する中で、市場価値を生み出すためにマーケットに対する提案力を高めようとするあまり、モノづくりがおろそかになっている企業も出ています。ひいては「モノづくりはもういらない、ODM(機器開発製造受託)に任せればいい」という動きもあるわけです。要は、日本におけるものづくりを捨ててまで、市場価値の追求に走ってしまうわけですね。もちろん、こういうアプローチを全否定しているわけではありませんが、それはそれでなかなか大変だと思います。そういう中で、日本のものづくりのあり方は今後どうあるべきかをめぐって、日本の製造業が揺れ動いているのが現状ではないでしょうか。こうした点を踏まえて、村田さんが手がけるプロダクトデザインの立場からご意見をいただけないでしょうか。

村田 今、中村さんがおっしゃったのは、マーケットをにらむあまり、自社が持っていた価値創造に関わる部分、いわゆるモノづくりの原点の部分を捨ててしまうということです。それはおそらく刹那的な生き方で、自分が在籍している間だけ企業が繁栄していればいいということなのでしょう。一例を挙げれば、かつて丹後半島はちりめんの一大産地で、多数の工場や問屋がありました。そこで織物を大量生産できる織機も開発されたのですが、彼らはその織機を韓国に売ったのです。彼らはさらに、韓国に安い人件費でちりめんを生産させて日本に輸入するという形で、コアになる技術を手放していきました。当初はかなり儲かったそうですが…。

中村 瞬間的にはそうでしょうね。

村田 はい。大島紬を着て、夜な夜な宴会に興じる旦那衆が数多くいて、それが「左団扇」の語源になったそうです。ところがその結果、韓国では自分たちで改良、改造を加え、買い取った織機の性能を上回る機械を作り始めました。最初のうちは織機も輸出し、ちりめんも安く輸入できたのでかなり儲かったのですが、それも数年しか続きませんでした。結局、今、丹後半島でちりめんを作っている会社は3社しか残っていません。それと同じことなのです。現状のマーケットだけを見て、モノづくりのすべてをEMSに任せてしまうとか、OEMで済ませるような体質に変わってしまった。これをどうするかが、日本のモノづくりの課題だと思います。

中村 市場価値を追求する必要があるのはもちろんですが、結局、「市場価値だけ」を追求してしまうという動きになりがちですね。一方、先の丹後ちりめんの話でも、先祖代々の伝統を頑なに守りながらモノづくりを行っているところもあるのでしょう。ところが案外、自らの強みをおさえたうえで伝統を守っているわけでもなかったりするのです。

村田 結局、「「丹後ちりめんでなければならない」のか、「ちりめん風であればどこのものでもいい」のかという違いが、地域ブランディングがきちんとできるかの大きな分かれ目になります。そのポイントになるものが「感性価値(生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることで顕在化する価値)」であり、ブランド化の可否はここにかかっているのです。

中村 なるほど。

村田 たとえば、アスクルに注文したコピー用紙やどこにでもあるホチキス、クリップに誰もブランド価値を求めないように、コモデティ化してしまった結果、ブランド価値が与えられない商品がある一方、お米のようにブランド化が有効な商品もあります。お米のように「この味でなければならない」という差異、違いをこれから日本企業は構築していかないと、丹後ちりめんの二の舞になってしまうでしょう。

中村 製造業の場合、大切なのは、モノづくりの強さと市場価値が結合することだと思います。ひとくちにブランドと言っても多種多様ですが、モノづくりや技術に加え、歴史、文化といった個々の企業が持つ背景を、市場価値につないでいくことで初めて強いブランドが構築できるのです。さらに「このブランドでなければできない」とか「本物の丹後ちりめんはここしかない」という差別化要素があれば、単なる市場価値ではなく「太い市場価値」を生み出すことができるのではないかと思います。

村田 そう思いますね。

中村 ところが、なかなかその部分が追求されないまま、「市場価値の追求」や「伝統の墨守」が断片的に行われてい
るのが現状です。また、自社の強みは確かにあっても、それが正しく理解されていません。そういう自身の認識、世間の認識の弱さが日本の問題点ではないでしょうか。

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