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第5回 モノづくりの強さと市場価値が結合すれば、日本の 製造業は再生する

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「知識統合型の生産組織」に革新せよ

中村 ここで、会社の中での仕事の進め方についてお話すると、20世紀初頭になり、テイラーの科学的管理法がかつ
ての工場制手工業を変革して以来、分業が百年以上続いてきました。その中で、日本企業の社内における仕事の進め方も分業型になり、多くの人が、それぞれ与えられた役割の中で仕事を進めるという形になっています。それはいわば、手続き型の仕事の進め方であり、(個人がそれぞれの役割の中で担う)その機能以上のことはできません。日本企業はそういう組織体制の下でスケーラビリティを発揮し、ある意味でQCDを追いかけていたのです。でも私は、こういう分業型の組織体制には限界があると思います。

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村田 なるほど。

中村 その意味で、先に話題になった「意味づけ」を行うためには、結論から言うと、分業型の仕事の進め方から集約的な仕事の進め方にもう一度戻すことが必要です。ただし、現場にはやることが山積しているので、集約後の人や組織がその作業量をカバーできるような環境を構築していかなければなりません。その鍵がバーチャルということになるのでしょう。今まで手が届く範囲でしかやれなかったことを、バーチャル化によって、スコープを広げるのです。そうすることで、今まで分業化していたものを集約化し、仕事のやり方を大きく変えないと、新しい価値を生み出していけないのではないかと思います。

村田 そうですね。

中村 そのために業務プロセスや組織を変えていくのです。その中で新たなモノづくりの価値を見出したら、(意味づけを通じて)市場価値に結びつけていく。そういうことは集約された組織でなければ難しいと思います。そこで、デジタルエンジニアリングやIoTといった技術を足廻りとして使いながら、集中的に価値づくりを行っていくのです。それは市場価値の創造とモノづくりの強みを極めることを、一緒に行うことと同義です。

村田 それは、水平分業とはまた違いますね。人間の集約…。垂直統合でもないですね。

中村 スキルや知識を統合し、ワンオペレーションを行っていくということです。

村田 私が2015年9月に出版する「行為のデザイン思考法」という本(村田智明著、CCCメディアハウス)の冒頭に、「プロジェクトの後戻りリスク」について記しました。その典型的なケースの1つはバトンタッチ型と言われるもので、中村さんが先ほどおっしゃった手続き型の仕事の流れに似ています。実際、調査、企画、デザイン、設計と仕事が引き継がれ、最後に販売に至るときに、いざ開けてみると、初めの企画から相当のずれがあるという状況がよくあるのです。

中村 私も同じような絵を描いていますよ(笑)。

村田 そうですか(笑)。この仕事の流れが、あるときに崩れてしまうのです。当然、「これは違う」ということに気付けば、前のステップに戻るのですが、この後戻りのリスクが、原価に非常に影響します。それではまずいから、同書のここにも、中村さんが提唱されている「SIM(シミュレーション統合生産)」を利用しなさいと書いておきました。

中村 そうなんですか。

村田 逆に私は、「円卓型」という仕事のスタイルを提案していて、これが私のデザインの基本的なやり方となっています。設計と生産の間は専門家が手がけるわけですが、ポイントポイントに円卓会議を招集し、ベンダやデザイナ、マーケタ、金融機関などさまざまな人たちが一堂に会して情報共有を図りながら、後戻りの無い仕事を進めるというイメージです。

中村 なるほど。いずれにしても、(人も組織も)集約の方向にあることは間違いないですね。私は12年7月に出版した『日本製造業を建て直す「超ものづくり経営」』(日経BP社)に、1人の人がすべての分野のスペシャリストになる「超人化」を実現することが必要だと書きました。「超人」とは言っても、スーパーマンのような存在ではなく、あくまで普通の次元の人であり、大衆に甘んじず、自らの確立した意志を持って行動できる人、自分で価値観を創造して生きる人のことを指しています。そういう人たちが固定概念や常識を「超えて」提案し、技術者としてのベストプラクティスを現出させることを「超人化」と呼んでいるわけです。

村田 いま中村さんがおっしゃったようなことを、私も自著「行為のデザイン」(CCCメディアハウス)の「企業内の開発スピードを上げるワークショップ」と題する導入部分で、ナレッジの統合として触れています。中村さんがおっしゃっていることは、システムの領域の話だと思われがちですが、結局はナレッジの統合だと私は考えています。

中村 私も同じ考えです。先に日本とアメリカ、ドイツを比較しましたが、日本の強みは「すり合わせ」であり、日本の文化は垂直統合だとすれば、徹底的にナレッジを統合すべきです。そういう考え方を踏まえて、最近「知識統合型の生産組織」というキーワードを打ち出しました。比較論になりますが、ドイツの産業構造は水平分業型でオペレーションが弱いため、インダストリー4.0のアプローチには標準化によってオペレーションを支援するという面があります。一方アメリカは、インテグレーションが強いもののオペレーションが弱いため、IoTを推進することで弱い面を補完しようとしているわけです。日本はオペレーションが強く、コンセプトやインテグレーションが弱いという特徴があり、その部分を、IoTを利用して強化することが必然の選択だと私は思うのです。

村田 そうですね。

中村 だとすると、方向としては垂直統合、強みとしては「すり合わせ」を徹底的に極めながら、バラバラになったナレッジをIoTで統合し、ワンオペレーションという集約的な体制の中で新たな道を切り拓く。そういう行動につながるような組織や体制に変えていくことが必要だと思います。こうした中で、意味的価値を直接発生させ、市場価値を現前に創り出すプロダクトデザインの力は非常に重要ですね。

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