第5回 モノづくりの強さと市場価値が結合すれば、日本の 製造業は再生する

ソリューションの明確なイメージを絵に描けるか
村田 そこで一番重要なことは、そういう場に参加している人たち、あるいはSIMなどを利用している人たちが、いかに自分の頭の中で創造力を働かせ、それぞれが置かれている状況を思い浮かべることができるかということです。
中村 はい、そのとおりです。
村田 シミュレーションですから、数字的には(計算の結果が)出てきます。でもそれ以上に、その状況が感覚的に目に浮かぶようにすることが大事です。そこで私はワークショップを行う手順の1つとして、「解決策の図解」と称し、ソリューションを絵に描いてみるという作業を実践しています。たとえば「製造ラインに新しい機械を導入すれば、こういうものを作ることが可能になるので、今回の企画に合うのではないか」とか「従来とはこう変わる」ということを、1度絵に落とし込むのです。自分が考えていることと、他の人が思っていることは異なるかもしれませんからね。
中村 そうなんです。まったく違いますよね。
村田 実際に、言葉ではわかっていたつもりでも、まったく違っていたりします。実はこういうことがナレッジもしくは感性の統合において最も重要で、皆が言葉で話してうんうんと頷いても、結局誰もわかっていないということが往々にしてあるのです。私の場合も、今お話したような「解決策の図解」という作業をやるようになってから、ワークショップがうまくいき始めたという経緯があります。
中村 でも、絵に描くという能力は、ハードルが高いものかもしれません。
村田 文字情報をアイコン化する作業ということなんですね。
中村 いとへんの「絵」ではなく「画」。スケッチすることではなく「概念を表す」ということで、そういう能力が求められているのだと思います。逆に、描くことによって自分の理解や認識を確認できるということは、自分の中でもインタラクションが起きているということにもなります。
村田 非常に弁の立つ人が百万言を尽くして話したことを、絵に描かせてみたら、とんでもなく内容に乏しかったということがありますね。
中村 描けないということは、ものごとの本質を理解できていないということだと思います。
村田 そうですね。もう1つ重要なのは、描いたものを統合し取捨選択することです。日本企業は、営業がこう言っている、上司がこう言っている、お客さんがこう言っているということを、全部取り入れてしまいがちで、その結果、たとえば家電製品にあまりにも多くの機能を盛り込みすぎて、失敗してしまうことがよくあります。でもよく考えてみてほしいのですが、たとえばiPhoneではテレビが見られないように、アップルではスマートフォンの機能面について、切るべきところは切っているのです。
中村 なるほど。
村田 そういう、プライオリティをきちんと設定したうえでの「正しい引き算」ができていないと思います。たとえば、「このソリューションを商品に入れ込めますか」という担当者の質問に対して、「むやみやたらにソリューションを採用すると、メインコンセプトがぼやけるかもしれない」というやり取りが、先のバトンタッチ・リレー、すなわち分業による手続き型の仕事の流れでは、非常にやりにくいですね。仮に、私が1から10までサポートすれば企業側は楽かもしれませんが、プロジェクトはまずうまくいかないでしょう。ですから私の関与は全体の1割程度におさえて、クライアント企業の従業員にほとんどの作業を行っています。そうすれば、彼らの間に「自分たちの手でやっている」という意識が芽生え、自らプロジェクトを推進するようになりますから、全員が味方になってくれて誰も反対しません。私は最後のデザインだけを手がけるという方法を取っています。
中村 こうした活動をぜひ広く普及させ、日本の価値づくりを推進いただければと思います。今日はどうもありがとうございました。
村田 ありがとうございました。

取材・構成 ジャーナリスト加賀谷貢樹