第2回 「グローバルなモノづくり」とは、世界を見据えた「ト ータルなモノづくり」と考えよ 前編

3次元データ活用による「見える化」と「見せる化」

鳥谷 まさに「百聞は一見に如かず」です。現場にしてみれば、言葉だけでなく図があるほうがわかりやすく、2次元の図よりも3次元のモデルがあるほうが、もっとわかりやすいですね。実際、XVLを使って3次元モデルを画面上で回転させたり、断面を見せたり、分解状態を見せることで、図が100枚あるのと同じ程度の情報量は出すことも可能でしょう。そういう意味で、圧倒的な情報量をお渡しすることができます。
中村 「見える化」、「見せる化」が重要ですね。
鳥谷 そうですね、まさに「見せる化」。時には「魅せる化」も必要です。
中村 今「見える化」、「見せる化」と言ったのですが、いかに見てもらうかという点も重要です。超軽量の3D化技術があるだけではなく、それをどういうポイントやタイミングで、どのように見せるのかという運用が、1つの大きなエッセンスになると思います。
鳥谷 それについて1つ申し上げると、XVLには作業手順、いわゆる組立工程のデータを入れ込むことができます。以前、組立工程つきの3次元モデルと組立工程のないCADモデルを、そのまま現場に渡したことがありました。あるお客さんで聞いた話では、CADデータをそのままXVLに変換して現場に渡したところ、現場から反応がほとんどありませんでした。お客様が期待したほどの効果は得られなかったのです。ところが現場の組立担当者が、作業手順を含む組立工程つきのXVLデータを作成したところ、「こういう組立はできない」「こんな作業手順では困る」
という反応があり、情報に対するレスポンスが大きく変わったと言うのです。組立工程をきちんと伝えていくことで現場の方がデータを通じて、自分の問題を「見える化」できるようになったのです。設計レビューに加え、組立段階で起こる問題点をフロントローディングする意味で、非常に大事ではないかとおっしゃっていましたね。
中村 そうですね。
鳥谷 もう一点お話ししたいのが、ある造船会社の例です。同社では日本で設計を行い、フィリピンで船を造っています。フィリピンにいる9000人の従業員は、船を見たことはあっても巨大なタンカーやばら積み船は見たことがありません。船を造ったこともなく、製造業の文化もない現地で、どうやって船の造り方を教えるのかという問題が起きました。そのため組立手順を全部XVLに入れ込み、3次元のアニメーションで伝えていくことで、現地の人にもしっかり技術伝承をしていくことができたという話があります。
中村 今お話しいただいた点は非常に示唆に富んでいます。使い手側にデータをそのまま渡しても、その「意味」は伝達ができないということだと思います。データを、相手のコンテクストに落とし込むことで、初めてデータが情報になるのです。単なるユーザ視点ではなく、ユーザのビヘイビアの中に落とし込むという意味で…。
鳥谷 ユーザーが置かれた立場で必要となる情報を、ユーザーの立場で見せてあげなければ、伝えたいことが伝わらな
いということでしょう。
中村 はい。今の鳥谷さんのお話でヒントになったのは、普通はデータの送り手側がコンテクストを組み立てていくのですが、逆にコンテクストベースで見ていくと、(送り手側の論理で組み立てられたデータは)ヒットしないということが初めてわかるということです。そこに意味があると思います。
鳥谷 そうなんですよ、中村さん。1つ具体的な例を思い出しました。先ほどの造船会社の話ですが、船は鋼板を溶接して造っていくじゃないですか。ところがある工程を見ていくと、そこを溶接してしまったら、そこから作業員が出られなくなるという場所があったのです。それを彼らは「地獄」と呼んでいました。誰が「地獄」を設計したのかと。それは完成図だけを見ても気付きません。この手順でこうやって、こうやって造るよね、ということを3次元で見て初めて、「これでは作業員が出られない」ということがわかるのです。そういう視点で見て初めて、しっかり情報のフィードバックができて、コラボレーションが可能になるのだなと思いました。
中村 「地獄」どころではないですね。墓場になってしまいます(笑)。
鳥谷 (笑)。となると逆に、日本でモノづくりを行っても、そういう問題さえ起こらなければ、海外の安い人件費に勝てるという話もあるのです。もし「地獄」を日本で作ったら、その部分を取り外してもう1度作り直すのに大きな「手戻り」が発生します。ところが船の建造では数十万点の部品を扱うわけですから、絶対に手戻りが起こらない手順さえ構築すれば、中国や韓国にも負けないモノづくりが日本でもできる可能性があるのです。
中村 そのケースでは、作業者の立ち位置などのデータを書き込まなければいけません。XVLでもそういうことができるのですか?
鳥谷 工場のモデルがあれば、作業者の立ち位置をコメントなどで明示できます。そこにヒューマンモデルを置けば、人体から今何が見えているのかということを検証していくこともできます。
中村 立ち位置とか視点を、現場のユーザも見ることができるのですか。
鳥谷 はい、見えます。両方が見えるようになっています。
中村 素晴らしいですね。現場と、現場にエンジニアリング・チェーンの業務を出していく立場にある人の間に、コラボレーションがあることの意味は大きいですよね。
鳥谷 当社には数学屋が多かったものですから、XVLは最初、いかにデータを軽くするかということだけに特化していました。ところが、ここ約10年の間に進化したのが、じつは後工程やサービスBOM(部品表)などを3次元形状と関連付けて表現する部分です。たとえばサービス時に扱う部品の単位と、設計で表現する製品の構造とは合致しません。サービスは補修部品というくくりで製品を見たいわけです。後工程で見ている人の視点は設計部門と違うので、彼らの視点で3次元の部品データを構造化してあげると、たとえばサービス部署の人が、補修部品という単位で形状確認することができるようになり、設計データとはまた違う形で現場に3次元データがどんどん展開されるようになります。これがこの10年間で起きた大きな進化です。
中村 素晴らしいですね。われわれにも似た経験があります。工程設計の「見える化」と共有化が当社の1つのテーマで、日本と海外というユースケース(使用事例)は非常に有効です。以前、日本企業では、日本で製品の設計を行ってマザーラインを作り、それをチャイルド化あるいはブラザー化するという展開を海外で進めようとしていましたが、なかなか日本側の体制が整わなかったのです。もしくは「そこは海外にやらせろ」ということで、マザーラインなしで、いきなり海外に製造ラインを作らせてしまうことになってしまいます。具体的に言うと、設計を終えたあとの作業標準を設計部門が作ったうえで、海外の現地スタッフに工程設計をさせてしまうケースです。自動車業界では体制によって違いますが、電気・電子系は基本的に、工程設計は海外に丸投げですよね。
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