第2回 「グローバルなモノづくり」とは、世界を見据えた「ト ータルなモノづくり」と考えよ 前編

3次元モデルがコミュニケーションの「言語」になる
鳥谷 中村さん、実際に丸投げでうまくいくのでしょうか。
中村 そうなると、日本流がうんぬんという前に、工程設計の経験がないか、もしくは工程設計におけるポリシや理念のない人たちが、「作れればいい」という観点で組んでしまうので、残念ながらいい工程設計にはなりません。当然ながら日本からスタッフが応援に行くわけですが、日本人が指導した瞬間にはよくなっても、日本人がふたたび現地に行くと、また間違いをやっている。いくら指導しても「もぐら叩き」の状態になり、教えたこととは違うことをやっているのです。それは現地スタッフの能力の問題というよりも、文化に依存している部分があると思います。基本的に、あるモノづくりのコンセプトや考え方を習得することより、まずは「この仕事が量産までいけばいい」という、ある意味で非常に合理主義的な行動になりがちなのです。

鳥谷 確かに仕事に追われている現場では、まず、目の前の仕事をすぐに片付けようとするのが普通ですね。
中村 そうなると「前の指導を受けて、こうしよう」ではなく「今の状況でこうすればいい」というように、非常に場当たり的な活動になりがちです。基本的かつ重要なコンセプトを捨てている形になってしまっているので、結果的には良いモノづくりはできません。そこでまた日本人が現地に行って指導しても、結局は「もぐら叩き」になり、手戻りが続出して量産体制がうまく構築できないケースが、かなりあるのです。
鳥谷 そういう中で、御社の技術はどう利用されているのですか?
中村 海外のスタッフで工程を組み立てるとき、エクセルや紙ベースではなく、われわれの工程設計シミュレーションソフトである「GD.findi」を使ってもらうのです。
鳥谷 なるほど、そこでネットを介して工程情報を共有するのですね。
中村 クラウドで動くので、現地で何をやっているかがわかるのです。
鳥谷 日本側でチェックができるということですか。
中村 リモートでチェックすることができます。これもデジタルエンジニアリングの1つのポイントだと思うのですが、「GD.findi」は生産シミュレーションの技術ですから、組み立てた工程をバーチャルで動かすことができるのです。仮想ではありますが、計算機上で実際に生産を行ってしまう。そうすると、たとえば工程をこう組むとリードタイムがこうなるとか、こちらのNC工作機械の稼働率が落ちる。あるいは、ロボットを導入してもほとんど稼働していないとか、このあたりにボトルネックが生じて工程間滞留が増え、ストックヤードが一杯になってしまう、ということが計画段階でわかるのです。日本人が指導する前に、そういうことを、現地の人たちに自分で気付かせることができます。
鳥谷 そこは大事ですね。現地スタッフが成長していかなければ企業の真の力になりませんから。
中村 ただ、問題があったとしても、実際にどう対応するかはそれぞれの企業のポリシによりますから、「こうすればいい」という指示まではできません。「基本的に、この製品はこういうふうに流すんだ」というコンセプトについては、やはり日本側が指導していかなければいけないのです。たとえばリモートもしくは今までの事例を見るなどの形で。日本側の「先生」がリモートで入ってきて、現地スタッフと対話する中で、自然言語をインターフェイスにするのではなく、バーチャルモデルを1つの言葉として会話ができます。
鳥谷 実際に工場の門をくぐらなくても、バーチャルの中でお互いに理解でき、コミュニケーションが成立するということですね。
中村 自然言語が唯一の言葉ではなく、デジタルツールで描かれたバーチャルモデルも言葉であると、私は考えていま
す。
鳥谷 コミュニケーションの手段になっているのですね。そこはXVLも同じです。
中村 はい。自然言語では言葉の解釈が非常に難しく、お互いに違った解釈をしてしまいがちです。わかったような気になって、本質部分では違ったことを言っていることがある。そのため、現地に行ってみたら、こちらの指示とは全然違うことをやっているということが少なくありません。自分が話していることの意図を正しく伝えるうえでも、デジタルツールを言葉として、相互理解を促すことは重要です。
鳥谷 グローバル化時代にデジタルエンジニアリングがどう貢献しているのかという意味で、非常に良い事例だと思いますね。
中村 製造プロセスもしくは製品の視点で、考え方を共有することが大事ですね。
鳥谷 そういうことですね。私もそういう経験が、お客様の事例でいくつかあります。その中で2つだけお話ししますと、1つは、あるメーカで工程の検証をしているところを見せていただいたことがあるのです。タイに工場を造るための検討を行っていて、そこにはタイ人がたくさんいました。通訳と日本人もいて、XVLで作成した3次元モデルを見ながら「この工程でモノが作れるのか」とか「これで本当にいいのか」ということを、タイ人が自分で判断し、問題があったら日本人のスタッフに「これでいいのか」と聞いているのです。そこには、タイの次に工場を造る中国のスタッフもいましたが、日本、タイ、中国の3カ国の人たちが同じ3次元モデルを共有しながらコミュニケーションを進めているのを見て、デジタルエンジニアリングツールがグローバルなモノづくりに貢献していることを感じました。これは「すり合わせ」型のものづくりのケースです。
中村 もう1つはどんなことですか?
鳥谷 デジタル家電系では製品を何百万個と作るので、工場を垂直立ち上げしなければなりません。ベースとなる標準工程は通常、日本で作ります。それをベースに新興国に工場を建てていくにあたり、その作業工程を伝えていかなければなりません。われわれのXVLの3次元モデルには標準作業を定義する機能があります。そのお客様では、定義された作業ライブブラリを利用して標準工程を構築していきました。しかも、その標準ライブラリをマルチ言語で定義できるので、工程ができた瞬間に中国語の工程表もタイ語の工程表も完成している、という状態が実現するわけです。そういう形で一気に量産立ち上げをしていくと、3次元モデルを利用して組立工程を再現できるので、従業員の教育にも活用できるわけです。
中村 モノづくりにおける1つの重要な考え方だと思いますね。XVLはデジタルエンジニアリングツールとしても魅力的ですが、設計で言うとモジュラー化、もしくは製造プロセスにおける何らかの標準化、体系化を進めるうえでも非常に有効です。とくに量産系のケースでは、そういうやり方が重要になる場合が多いのですが、その一方で、きちんと体系化して仕上げていけるかが大事だということですよね。
鳥谷 そうですね。モジュラー化は製造業の抱えるこれからの重要な課題の一つです。
中村 これは、非常に難しい部分ではないかと思うのです。どうでしょう、実際にきちんとできている会社は少ないのではないでしょうか。モジュラー設計と言っている会社は、私も色々と知ってはいますけれど…。
鳥谷 モジュラー設計と言っている会社はたくさんありますが、成功しているところは確かに少なく、フォルクスワーゲンなど海外のほうが先行しているイメージがあります。これは正しいかどうかわかりませんが、私が個人的に思うことは、何ど海外のほうが先行しているイメージがあります。これは正しいかどうかわかりませんが、私が個人的に思うことは、何千、何万という部品を用いて、モジュラリティを持った製品構造に構築するのは、超天才にしかできないのではないかということです。日本は、どちらかというとボトムアップ的にモノづくりを進めていく傾向がありますから、ある天才がトップダウン的にモジュールを構築するというケースは、実は非常に稀なのではないでしょうか。
中村 なるほど。
鳥谷 今、パートナである図研さんと「visual BOM」という、BOMのビジュアル化を図る製品を一緒に作っています。このソフトには当社で開発した類似形状検索機能が搭載されています。製品に使われている複数の製品について、どの部品が共通なのか、ある部品には以前にもこんな類似形状の部品を作っている、ということを「見える化」できるようになっています。それを見ながら「こんな部品はいらない」とか「新規設計する必要はない」ということがわかれば、ボトムアップ的にモジュラリティを徐々に向上させていくことが可能です。このようにデジタルエンジニアリングツールが発達すれば、超天才ではなくても、少し賢いエンジニアなら、モジュラー設計がある程度はできるというやり方もあるのではないかと思います。
中村 結果的には標準化ですよね。部品と言うより、あるモジュラークラスもしくはサブアッセンレベルの話だと思いますが、おっしゃるように形状の類似度を増していけば、ひょっとしたら、この部品とこの部品は標準化できるのではないかということになりますね。
鳥谷 そうです。そのようにして、ボトムアップ的にモジュラリティを上げていこうというアプローチを今、図研さんは進めようとしています。
中村 設計においては、日本はまだそのあたりを不得意としていて、自動車メーカなどでも「そういうモジュラー設計は、はたしてできるのか」と言っています。それから鳥谷さんが先ほどおっしゃった製造の点についても、私は興味があるのですが、生産プロセスの標準化に向けた試みが、最近少しずつ動いていると思うんですね。
鳥谷 どういう標準化でしょうか。
中村 製品ではなく、生産プロセスの標準化もしくはモジュール化。「すり合わせ」型ではなく、量産型に代表されるようにトップダウンでどんどん落とし込んでいくモノづくりの中では、工程そのもののモジュール化もあり得ると思います。日本のモノづくりはとくに、工程設計もしくはそれ以降の領域において優位性や知見を持っています。設計の方に申し上げるのは非常に恐縮なのですが、設計分野で日本のモノづくりは劣るとは言わないまでも、むしろ生産側に強みがあると考えざるを得ないのです。また先ほど鳥谷さんもおっしゃったように、天才はいないとしても、製品を作り込む力はあるわけです。これをもっと活かすことができるといいのではないかと思うんですね。
鳥谷 なるほど工程そのもののモジュール化ですね。
中村 ところが今、製品を作り込む力が企業の中でどう活かされているかと言うと、個別個別の対応でしかありません。現場でPDCAを回すのは重要なことであり、それでしか実現できないこともありますが、個別個別の活動でやっている限りにおいて、その効果はリニア(線形)であって非線形ではありません。(説明変数と被説明変数との関係を)非線形にすることが価値につながるというような理屈っぽいな言い方はしたくありませんが、そういう力をいかに活用するかがポイントではないかと思うのです。
鳥谷 1人のノウハウを普遍的なものにするということですね。知識を共有するという話につながってくるのでしょうか。
中村 そういう方向を模索していかざるを得ないと思います。
3 / 4