1. HOME
  2. ブログ
  3. 対談
  4. 第3回 エンジニアリングチェーンを強化し、価値と競争力 の再構築を図れ 前編

BLOG

ブログ

対談

第3回 エンジニアリングチェーンを強化し、価値と競争力 の再構築を図れ 前編

LEXER dialogue01

日本式「積み上げ」思考の限界

LEXER taidan02 3

中村 私は機械式時計が好きで、時計の部品を手に入れて自分でも作るんです。スイスには有名なオメガやロレックスなどのブランドがありますが、たとえばオメガ「スピードマスター」のムーブメント(キャリバー)は購入品で、勿論、設計もムーブメントメーカが行っています。


松本 そうなんですか。その話は、私にとっては衝撃に近いですね(笑)。

中村 あまり知られていませんが、ムーブメントメーカとしてはバルジュー、ユニタス、エタなどが代表的で、その中でパワーがあるとか精度が出る、壊れにくい、メンテナンスしやすいなどの優れた製品が結果的に標準になってきたのです。たとえばオメガの「スピードマスター」にはバルジュー7750というムーブメントが使われていますが、そのムーブメントに合わせて針メーカが針を作り、ダイヤル(表示盤)メーカが文字盤を作っています。時計メーカがムーブメントや針、ダイヤルを買ってきて、ケースに入れて組み立てれば時計ができるわけで、それを50万円や100万円という値段で売っているのです。


松本 中村さんは、そういう部品を個人輸入して時計を組み立てているのですね。


中村 ええ、これがそうなんですが、立派に動きます(笑)。いろいろ調べてみるとリペアパーツが売られていて、それらを買ってみて組み立ててみると、本当に時計が組み上がるんです。私個人の趣味でもありますが、産業構造の調査という位置付けで、情報収集も兼ねて時計を組み立てています。


松本 そうなんですか。

中村 これは時計業界に限りません。たとえばヨーロッパの自動車メーカを例に挙げると、BMWのXシリーズやダイムラーのGクラスという四駆シリーズがありますが、じつは両シリーズを、同じ会社がODM(相手先ブランドによる設計・製造)で製造していました。日本で言うと、トヨタの86と日産のスカイラインを、外注先が設計から製造まで手がけているようなものですが、これはヨーロッパの産業構造の中では決して不自然ではありません。


松本 そもそも、そういう構造になっているのですね。


中村 例えばボッシュなどもそうですが、ヨーロッパでは、部品メーカは表には出てこなくても大きな存在価値を持っていて、なおかつ自社が手がけるビジネスにも流動性があります。ところが、日本の部品メーカは元請けから言われるままにモノを作り、コストを半分にと言われたら半分にしなければならず、他の系列に行くこともできません。そういう産業構造には問題があると思います。


松本 今のお話を聞いていて、日本の産業構造は「階段」だと感じました。それは、サプライヤから集めた数多くの部品の価格もしくは価値が階段状に積み上がって販売価格になるという意味です。ところがヨーロッパでは、オメガの「スピードマスター」のように、部品を組み上げて最終製品になる段階で一気に価値が跳ね上がりますよね。


中村 付加価値構造がまったく違うのです。

松本 ある意味で、ブランディングがうまいのでしょうね。


中村 仮にムーブメントの調達価格が5万円だとすると、オメガなら最終製品が50万円ぐらいになります。ところが名の知れないメーカが同じ部品を使い、同じクオリティの製品を作っても10万円にしかならないのです。ブランドや外観のデザインを始めとする付加価値の違いだけで、それだけ差が出るわけですよね。


松本 つまり、最終製品を扱う企業がブランドをしっかり確立し、良い値段で製品を市場に出しているから利益を確保できている。結果的に、そこで利益を還元できているから下請けも潤っているように見えますね。一方、日本では、それを適正価格と言うのかよくわかりませんが、製品を安価に売るしかないため、下請けに利益があまり還元されていないような気がします。非常に考えさせられる問題ですね。


中村 これは、モノづくりの価値はどこにあるのかという意味で、きわめて本質的な問題ですね。産業における付加価値構造の話であるとともに、プライスリーダーの存在という問題も大きいと思います。日本の付加価値構造は、松本さんがおっしゃるように「階段」状で、ある機能に別の機能が積み上がるのと並行し、価値が積み上がっていく中で、「この製品ならここまでできるから買う」となる。一方、アメリカやヨーロッパでは「ここまでできるから」ではなく、「ここはこういうものだ」というディフィニション(定義)が強く、スイスの高級機械式時計メーカを典型に、腕時計1個が100万円とか300万円と、絶対に値段を落としません。


松本 なるほど。


中村 その(プライスリーダーという)意味で、典型的なのが建機産業でしょう。たとえば私の古巣であるコマツの建機がいま、GPSなどの通信システムを活用した遠隔車両管理システム「KOMTRAX」で成功しています。ところが世界の建機市場における圧倒的なトップは米キャタピラ社で、売上高はコマツのも2倍と、大きな開きがあるのです。アメリカ企業の価格戦略の特徴は「ここでこれだけの利益を出す」という価格が最初にあり、そこから価格を落とさない。ということは、コマツは、価格を落とさないキャタピラのプライスモデルで形成されている市場で製品を売ればいい。しかも鉱山市場では単品販売ではなく、ダンプとパワーショベル、ホイールローダといったさまざまな機種をセット売りすることが多く、フルラインメーカが有利なのですが、フルラインメーカは世界中にキャタピラとコマツしかありません。その中で、キャタピラは値段を下げない。こうした価格競争力は業界の中で決まるものですから、このような点はひとつのポイントだと思います。


松本 改めて考えさせられるのですが、日本では現場主義とよく言います。現場の事実に基づきながら「積み上げ」で考え、最後に結論を出すわけですね。ところが今のお話だと、海外メーカには最初に「ここを目指そう」という目標があり、そこから(具体的に)落としていきます。一方、日本メーカは原価を積み上げ、そこに利益を載せて販売価格を決めるという発想から抜けられないので、思考プロセス上、高級ブランドを作ることが難しいのではないかという気がします。

「自社の価値」をどう構築すればいいのか

LEXER taidan03 3

松本 先にお話のあったフルラインもそうですよね。自社に競争力をどう構築するかを考えた場合、「ゆりかごから墓場まで」のように製品単体ではなく(ラインナップを)広げていくビジネスモデルを構築できるのはやはり強いと思います。たとえばコマツさんにはグループ内に教習所もあり、リースを扱う金融会社もある。グループの物流会社では運送や物流センターを手がけているほか、現場監督などが詰めるプレハブハウスを造る会社もあって、グループ全体で顧客を囲い込んでいるような感じです。


中村 金融収支は非常に大きいですね。


松本 トヨタが約10年前に旧東海銀行からカードローン部門を買収し、収益率の高いオートローン事業を取り込んでグループ会社化しました。かつて米GMでは、その利益の約6割から8割をGMキャピタルというオートローン会社が稼いでいました。ある意味、車を作って稼ぐのではなく、別の事業で稼ぐビジネスモデルを作った会社が勝っていて、愚直にモノだけを作っているところが苦しんでいるような気がします。

中村 そういう現状ですね。


松本 その意味で、「KOMTRAX」は「コロンブスの卵」的な発想です。最初は盗難防止の目的でGPSをつけたのですが、あとからさまざまな付加価値を加えています。非常にうまいやり方ですね。


中村 「コロンブスの卵」的な発想の転換というのもそうですが、新しいことを本当に実行したことが大きいですね。私もよく言うのですが、ビジネスモデルや価値構造についていくら考えていても、実際にビジネスとしての価値はどこにあるのかを測らなければ、何も生まれません。世間では多くの人がビジネスモデルや価値構造について考え込みますが、それほど「おいしい」商売のネタは見つからないものです。でも実際に行動してみると、そういうものが案外どこかに転がっていたりする。それを誰が手がけ、成功の果実を手に入れるかということだと思います。私もコマツ出身なのでわかりますが、コマツは実行する気概がある会社で す。「考えているだけでは始まらない、やってしまえ」というように。


松本 そうですか。今の時代、良い会社というのは、実行している会社だと思います。サントリーも創業者・鳥居信治郎さんの口癖だった「やってみなはれ」という言葉を地で行くような感じで業績を伸ばしています。そもそも今の時代は市場の予測が難しく、どれだけ精緻なプランニングをしても、それがうまくいくのかどうかはほとんどわかりません。そういう中で、「うまくいくのかわからないならやってみて、行動しながら修正する」という、「動きながら考える」ことを実践できている会社が伸びています。


中村 そう思います。


松本 それを「実行力」と言うと安っぽくなりますが、ベンチャー企業の強いところは、さまざまななことをどんどん実行し、修正しながら前に進んで行くところだと思います。かたや大企業はマーケティングや商品企画などの部門であれこれ考え、商品を出す、出さないと言っている間に、ベンチャーに先を越されてシェアを取られたりしてしまう。その意味でスピード感、胆力、あるいは割り切りが大事なのかもしれません。


中村 いろいろ言い方はあると思いますが、考えても始まらないという中で、やはり大切なのは実行することです。とはいえ、たんにチャレンジをするだけでも駄目で、実行しながら(市場を)冷静に見極め、価値を手に入れる能力が要りますね。それから、これは見極めが難しいのですが、「そこに(価値の源泉が)何かある」ことをつかむ直感力のようなものも必要です。つまり(成功するには)北に行けばいいのか東に行けばいいのか、あるいは西に行けばいいのかという、可能性を感じる能力ですね。


松本 必要ですね。ところがいま、商品が売れるのか売れないのかを論理的に数字で証明しないと出荷できない風潮が
大企業の中にあるような気がします。でも、そういう形で証明できるものは既に誰かが出しているのです。いま多くの企業が経営の可視化や数値化といった、欧米化されたガチガチの経営手法に向かっていますが、もっと感性的でアナログ、あるいは自由に物事を考えている会社のほうが、うまくいっているのではないでしょうか。


中村 そうですね。ところが「やってみなはれ」とは言っても、何をやってもいいわけではありません。徹底的な議論を経て、「(リスクはあるが)それでもやる」というのが本当のところなのでしょう。それを胆力と呼んでもいいと思うのですが、そういうことがいま、なかなかできなくなっているのが残念です。


松本 そこにもつながることですが、最近では製造業の現場でも、人がなかなか育たないという話がよくあります。昔は車にしても開発期間が2、3年あったのですが、それがいまでは1年や1年半になり、学びながらモノを作っていくことができなくなりました。そのようなOJTが許されないほど開発期間が短くなり、かつ失敗が許されないほど余裕がなくなったという環境の変化があります。昔なら失敗をしてもそれなりにリカバリできていたものが、いまでは失敗するとリカバリできないような状態。私は失敗を受け入れるモノづくりの環境をどう作っていくかが、モノを作りながら人を育てる環境作りと同義だと考えています。


中村 失敗が許されないというのは、きわめて根の深い問題ですね。そういう中で、とてもリスクは取れないという経営側の問題が少なからずあります。その背景には株主資本主義もあると思いますが、経営陣が経営における間接部門の価値を適確に把握しないまま、間接部門がコストセンターとみなされ、人員がどんどんスリム化されていることも大きく、その結果、現場の余裕がなくなっています。昔は自動車メーカにはプレスから溶接、塗装に至るまで、車の作り方を全部知っているというベテランがいましたが、いまは各部門にエキスパートはいますが、全工程を知っている人はいなくなってしまった。さらに、これは日本の悪い癖で、業務を下流に丸投げするので、上流には現場の価値がますます見えなくなっている。そのため上流と下流の価値認識のギャップがどんどん広がってしまうのです。

関連記事

▼ LEXERソリューションサイト

GD.findi
生産シミュレーションで生産活動の現場とデジタルをつなぎ、未来に向けた意思決定を支援をいたします。