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第3回 エンジニアリングチェーンを強化し、価値と競争力 の再構築を図れ 前編

LEXER dialogue01

ホンダの組織、トヨタの組織

松本 かつては本田宗一郎さんを典型に、経営者は現場にいたような気がします。経営と現場が一体だということではなく、現場の中に経営があったのです。ところが会社が大きくなるにつれて組織がピラミッド化し、結果的に経営と現場が離れてしまいました。あの頃のホンダが凄かったのは、経営と現場があれだけ離れてしまったにもかかわらず、本田宗一郎さんが現場に居続けたことによって、組織が伸びきったゴムのように劣化しなかったこと。どれだけ会社が大きくなっても、組織が弾性を保った状態で、どんどん成長していったような気がするのです。


中村 なるほど。


松本 ところがいま多くの企業では、会社の成長とともに組織のピラミッドがどんどん積み上がり、社内が伸びきったゴムのような状態になっています。


中村 そうですね。企業規模が大きくなり、グローバルに戦線が広がることで、組織のピラミッドが上もしくは下に拡大していくことは致し方ないとしても、昔の管理方法論をそのまま踏襲してはいけないということだと思います。先ほどの話はわかりやすい例で、良い意味で言えばアジャイル(敏捷)で、「何でもあり」で、現場の人たちの創意工夫でやってよかったのです。現場力をベースとするアプローチではシステマチックではない部分があり、現場の個々の判断に委ねることが基本だからです。ところがそういうやり方を踏襲する中で規模が拡大していくと、もともと個々の判断でやらせているので、マネジメントが難しくなります。いわば規模が拡大していくと兵站が伸びる、すなわちゴムが伸びきった状態になるので、規模に応じた管理モデル、すなわちエンジニアリングのマネジメントが要るのです。にもかかわらず、然るべき管理モデルを構築せず、昔の管理手法のまま大きくなったので、マネジメント不在でバタバタしているのが現状だと思いますね。

松本 はい。


中村 トヨタにはTPS(トヨタ生産方式)という考え方がありますが、外部には見えないところで内部的にはかなり細かな管理メソッドやマニュアルが準備されていて、それが活きています。つまり兵站が伸びても、個々の現場がきちんと回る仕組みを持っているのです。


松本 トヨタの面白いところは、1つひとつの組織の中で仕事が小さな単位としてぐるぐる回り、それらの単位がまたお互いにくっついて仕事が回っていること。最小単位の完成度の高さがトヨタの強さではないかという気がします。案外、その単位1つひとつの完成度の高さをうまくつないでいるのがマネジメントなのでしょう。トヨタの方に話を聞くと、課員あるいは部員は自分たちの業務のことを考えていますが、課長や部長クラスはトヨタという会社や車のことを考えていて、組織と組織の谷間にある調整などの仕事を、上の人たちがうまくやっているそうです。


中村 なるほど。


松本 だからトヨタでは仕事が全体的に流れていて、そういう調整能力の高い人だけが昇進していくのです。もともと部分最適でスペシャリストだった人が、全体的もしくは俯瞰的に物事を見るという思考や行動ができるようになるに従い、昇進していくという意味で、トヨタはバランスが絶妙に取れている会社だという気がしますね。

生産技術の強い会社が儲かる

中村 トヨタも組織作りについては、試行錯誤を繰り返しているように見えますね。技術ラインで切ったり、製品ラインで切ったり。言えるのはカイゼンを指導する組織である生産調査部(生調)で現場力に横串が通っているということです。トヨタはもともと「生技」の会社なのです。


松本 そうですね。生産技術が強いですよね。


中村 昔は「ナンバー生技」と言って、第1生技、第2生技という部署がありましたが、これが縦串の役割を果たしていました。(先の生調と合わせて)縦と横のラインがしっかり通っていたことがトヨタの強みだったのでしょう。

松本 生技が強い会社は利益が出ています。


中村 そうですね。


松本 キヤノンも生技が強いですよね。御手洗名誉会長が凄かったのは、生産技術を重視し、戦略部門と位置付け、モノを効率的に作るために、生技にプランニングをさせていたことです。また、中村さんがおっしゃっていたように、トヨタも生技が強い会社です。ということは、じつは生産技術はメーカにおける要のセクションなのではないでしょうか。


中村 そう思いますね。一方、そうではありながら、かつて日本企業で生産技術部は、設計部、製造部と並ぶ独立した部署でしたが、経営側がこの価値を活用できなかったのです。実際、多くの会社では生産技術部がなくなり、その機能を製造部もしくは設計部の中に組み込まれたりしています。つまり製造技術を「中抜き」にしてしまったことが、日本の製造業にとって大きな岐路になったと私は考えています。


松本 同感ですね。最近、生準(生産準備)という言葉がよく言われるようになってきました。その辺のことをきちんと考え、新しいことをやり始めている会社は、海外展開がうまくいっています。日本で製造技術を徹底的に磨き、それと同じやり方を、それぞれの国ごとにきちんと展開していくプランをきちんと持っているのです。そういう生産技術や生産準備が強い会社は業績がいいようですね。


中村 そこでお聞きしたいのですが、そういう企業はなぜ、生産技術や生産準備の戦略的な重要性をおさえて、海外にも展開することができたのでしょうか。


松本 やはり、ものづくりの本質がわかっているからではないでしょうか。


中村 なぜそこに気付いたのでしょうね。


松本 モノづくりのコスト構造や価値構造を理解しているような気がします。そもそも価値とはどうやって生まれるのか、価値の源泉はどこにあるのか、ということをきちんと把握しているのでしょう。


中村 そういう分析的な視点があるわけですね。


松本 実際、「ここの部署のこういう取り組みが価値を生んでいる」ということや、「この部署がきちんと作り込み、コストをおさえているから原価割れしていない」という、いわゆる要のポジションや要の工程がどこなのかを認識できているような気がします。


中村 そうですね。その一方で、認識とは結果であり、仮にそういうことを認識できたとしても、実行できるかどうかは別の話です。その意味で、なぜ実際に行動できたのかというところに興味がありますね。環境によるものなのか、経営者の旗振りなのか。あるいは会社が置かれている現状の中で、そうせざるを得なかったのか。


松本 なるほど。1つは、どれだけ確信を持っているかということだと思います。中村さんは先ほど、「やってみなはれ」のあとに徹底的に議論すると話していましたが、それと同じで、「(ポイントは)ここなのか」と思ったときに徹底的に考え議論し、間違いないと思うからこそ、行動に移せるのです。もう1つ言えるのは、企業文化にも関連することですが、「やってみて失敗したらどうしよう」ではなく「とにかくやってみよう」と思える土壌があるかどうかも重要だということです。

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